君への愛は嘘で紡ぐ
「でも、そのせいで笠木さんが……」


悪者になってしまった。
私がわがままを言ったせいで。


そして、会いたいのに会うなと言われてしまった。


「私、お嬢様が好きになった方が、悪い人だと思えないんですよね」


奈子さんは微笑んでいる。


「悪い人だったら、お嬢様は幸せそうな顔をしないはずですし」


どうして奈子さんはここまで私のことをわかってくれるのだろう。
まるで、お母さんみたいな温かさで包まれているようだ。


「さあ、着きましたよ。夕飯はお嬢様が食べたいものにしましょう」


マンションの中に入る奈子さんの背中を追う。
エレベーターに乗り、五階で降りる。


奈子さんはカバンから鍵を取り出し、ドアを開けた。


「あ」


台所に立った奈子さんは小さくこぼした。


「すみません、お嬢様。シチューを作ってる途中でした……」


言われてみると、シチューの匂いがする。


「牛乳がなくて買い出しに行ったのに……」


奈子さんは袋の中から牛乳パックを出しながら、独り言を言った。


八年、奈子さんの働く姿を見てきたけれど、このような失敗をしたところを見たことがなくて、なんだか笑ってしまった。


奈子さんはそんな私を見て頬を膨らませている。
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