君への愛は嘘で紡ぐ
笠木さんが丸椅子を叩き、私はそれに座った。


「それにしても……まさか本当に金を出してくれるとは思わなかったな」


笠木さんは思い出し笑いをしている。


「でも、結婚は許してくれたのかわかんねえや」


言われてみれば、お父様はそれについて言及していなかった。


だけど、なぜか安心していた。


勢いで笠木さんとの結婚を決めたが、先のことなど一切考えていなかった。


「笠木さんは、私と結婚して……後悔、しませんか?」
「しないよ」


即答だった。
嬉しい反面、不安は大きくなる。


「ああ、でもそうか。結婚しても、俺が円香を養えるかって言われたら、無理なのか」


笠木さんは思いついたように言った。


お父様に頼れば、お金の心配はしなくてもいい。
だが、そこまで甘えるつもりはない。


「俺がちゃんと働けるようになるまで、婚約ってことにしておくか」


笠木さんは笑顔で提案してきた。


反対する理由がなかったため、素直に頷く。


「そうだ、忘れてた」


笠木さんが独り言のように小声で話すから、無駄に緊張する。
私は黙って次の言葉を待つ。


「結婚したら苗字が一緒になるわけだから、今のうちに下の名前で呼ぶことに慣れておこう」
< 205 / 228 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop