君への愛は嘘で紡ぐ
希実さんはそこで手を止める。


「高校生になった玲生が、手紙をくれたの」


希実さんは私が読みやすいようにアルバムの向きを変えた。


『今までごめん。ありがとう』


その下には希実さんの返事がある。


『こちらこそ、生まれてきてくれてありがとう。元気に産んであげられなくて、ごめんなさい』


希実さんはなにも悪くない。


その言葉を、何度飲み込んだだろう。


「玲生の病気は手術すれば治るけど、成功確率が低いって知ったのは、このころだった。でも、玲生は手術しないって」


その理由は知っているから、疑問に思うことはない。


「どれだけ説得してもしないって言い張ってたのに、円香ちゃんと過ごすだけで変わるとは思わなかったな」


希実さんと目が合う。


「円香ちゃん、本当にありがとう」
「いえ、私は私のやりたいと思ったことをしただけです」


玲生さんのお見舞いに行っていたのは、私が会いたかったから。
玲生さんに手術をしてほしいと説得したのは、もっと玲生さんと過ごしたかったから。


本当に、ただの私のわがままだ。


「これからも玲生のこと、よろしくね」


希実さんはアルバムを床に置くと、両手で私の手を握った。
私は返事をする代わりに、優しく握り返した。
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