結婚してみませんか?
「この近くの居酒屋でいい?」

「はい。相沢さんにお任せします。」

「あれ…俺の名前知ってる?」

相沢さんはキョトンとした顔で私を見る。

「詩織がそう呼んでたので。」

「恋ちゃん覚えてくれたんだ。」

「…同じだから。私も相沢なんです、苗字。」

「マジ?偶然だね。あっそこの居酒屋入ろう。」

2人で店内へ入る。活気に溢れ賑やかな店内に元気な店員さん。その元気な店員さんに案内され席に着く。

「次に会ったら名前教える約束だったよね?俺は相沢(あいざわ) 智章(ともあき)、28歳。職業フォトグラファー。」

「フォトグラファー?」

聞き慣れない言葉に思わず聞き返す。

「そう。さっき恋ちゃんがいた会社で、主にファッション誌で使う写真を撮ってます。次は恋ちゃんの番ね。」

「…相沢 恋、26歳。ただのOLです。」

注文したビールを飲みながら、淡々と話す。

「恋って名前だったんだ。可愛い名前だね。」

「どうも。」

「そういえばさっき、会社で笹倉さんと何してたの?」

「笹倉さんを知ってるんですね…私の母があの会社に勤めてまして、今日は忘れ物を届けに来ました。」

「母親が?」

相沢さんは何やら考え込んでいたが、パッと私の顔を見て話を続けた。

「まさか母親って、相沢…編集長?」

「えぇ、母をご存知ですか?」

「知ってる知ってる。今日も俺の撮った写真、ダメ出しされたわ。へぇ、恋ちゃんは編集長の娘かぁ。」

相沢さんは、私の正体が分かり楽しそうな顔をしてビールを飲んでいる。

「華やかな編集長の娘が私みたいな地味な子で意外でしょ?」

女性ファッション誌を扱っている母は、オシャレにも気を使い、華やかな容姿を保ち、何歳かは言えないが年齢よりも若く見える。

「そうかな。恋ちゃん、地味にしてるだけで普通に美人じゃん?化粧映えしそうだよね。」

表情には出さないが、社交辞令とは言え、サラッと褒められた言葉に私は驚いた。

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