高嶺の花沢さんは恋の仕方がわからない
西口くんが私から離れた。

「――ッ…」

西口くんは真っ赤な顔を隠すように、うつむいた。

「――俺、今がすごく幸せかも知れない…」

西口くんが言った。

それは、私も一緒だった。

契約が取れたり、仕事を褒められたり、美味しいものを食べたり、見たかった映画やドラマを見たり…と、幸せな瞬間はたくさんある。

好きな人に、西口くんに抱きしめられたこの瞬間は、私にとってすごく幸せで仕方がなかった。

「蜜実さん」

西口くんが私の名前を呼んだ。

すぐにハッと我に返ると、
「今は何も言わないことにする」
と、西口くんは言った。

「えっ…ああ、そう…」

何を言いたいのかはわからないけれど、彼が決意をしたその時まで私は待っていようと思った。

「帰りましょうか?」

そう言った西口くんに、
「ええ…」

私は返事をした。
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