見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
悩んで黙り込む私に代わって、周さんが簡単に説明する。


「煎茶道は様式に則って行う茶道とは違って、場所に決まりはない。テーブルでもれっきとした作法を披露できる。あなたは完全相伝制に詳しいようだから、その辺りも当然知っているものと思ったんだが」


一段と冷たくなった視線と若干嫌味交じりの声が、橘さんに向けられる。私は目を見張り、橘さんはギクリとしたように見えた。

完全相伝制とは、悠久流のような家元制度をとらない伝承方法のことだ。ということは、周さん……ついさっきの橘さんの発言を聞いていたの?


「煎茶道の流派は様々だ。どれも少しずつ作法が違っていて、互換性がないと言っても過言ではなく、どの流派にもそれぞれの素晴らしさがある。生まれながらに家元であろうとなかろうと、茶の道を学ぶのになんら問題はない」


毅然と放つ周さんに、橘さんは決まりが悪くなったように目を逸らした。彼が私を擁護してくれていることは明らかで、胸がじんとする。

次いで、彼はこちらに視線を移す。


「ちなみに、君の作法は私が知っている悠久流と瓜二つだ。つまり、正しく伝承されている証拠だろう」

「えっ……」


思わぬ言葉に、私は目を丸くした。
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