見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
先にチェックインを済ませ、荷物を置いたあとに四十八階へ向かった。

大きな窓ガラスの向こうには薄紫色の空が広がり、街に明かりが輝き始めている。真っ暗になったら美しい夜景が見られるんだろう。


「綺麗な景色……。高層ビルなんて来たの、いつぶりだろう」

「そういえば、まだデートらしいこともしていなくてすまない」


会場を目指して歩きながら外を眺めて呟く私に、薄手のジャケットとパンツのコーディネートも素敵な周さんがそう返した。

彼にとっては、映画を見に行ったり、あらかじめ予約した上質なレストランで食事したりするのがデートと呼ぶのかもしれないが、私はそんなことはない。


「してるじゃないですか。この服を買うためのショッピングも普段の食料の買い出しも、ふたりで行けば私にとってはデートです。もちろん今日も」


自分のひらひらとした袖を軽く摘まみ、ふふっと笑った。彼は一瞬目を丸くする。


「……これまでそんなふうに言われたことはない。少欲知足(しょうよくちそく)というやつか」


これまで周さんが交際してきた人は、おそらくいいご身分の方のはず。デートの価値観も、きっと私とは違っていただろう。
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