見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
そこへ、作業着姿の父がまたしてもしんみりした様子で近づいてくる。


「希沙は本当に親孝行な娘でねぇ……。今日まで大きな病気も怪我もせず、立派に育ってくれて感無量だよ。幸せになるんだぞ、希沙」

「いや、結婚式じゃないから」


子犬みたいに目をうるうるさせた、泣きそうな顔をこちらに向けられた瞬間ツッコんだ。父の気の早さはブレない。

一柳さんが泰永家の男たちに囲まれる中、ふいに私のワイドパンツがくいっと引っ張られる。見下ろせば、心晴さんの三歳の息子くんがニコニコの笑顔を私に向けていた。

とても人懐っこくて可愛い子で、今もたんぽぽが咲いている庭のほうへ私を連れて行こうとしているようだ。

少し彼と戯れていると、休みにもかかわらず見送りにやってきてくれた心晴さんがこちらへやってきた。

私の隣にしゃがみ、たんぽぽの綿毛を飛ばして遊ぶ息子くんを眺めながら言う。


「希沙ちゃんのお相手が、まさかヒトツヤナギの跡継ぎだったとはね~。さすが旧華族、オーラが凡人の比じゃないわ。この辺りじゃ見かけない美形だし」


ニンマリしている彼女は、どうやら以前から一柳さんの会社を知っていたらしい。
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