見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
夕方、周さんに連れられてお邪魔したのは、近所にある蕎麦屋さんだった。
小奇麗だが歴史を感じる古民家風のお店で、あまり外食で蕎麦を食べない私も、その美味しさは十分にわかった。
私が移住してきたから蕎麦を食べにきたのかと思いきや、どうやら引っ越し蕎麦とは、本来挨拶を兼ねて近所に蕎麦を配る習慣のことを意味し、引っ越した者が祝って食べるものではないらしい。
じゃあ、なぜ今日食べにきたのかと問うと『単に食べたかったからだ』と即答され、つい笑ってしまった。
周さんは、複雑なところもあれば単純なところもあって面白い。
そして、とにかく正直な物言いをする。食後にお茶を飲みながら、『茶は希沙が淹れたもののほうが美味いな』と呟いたりして。
そんな彼を見ていて、ふと感じた。この人と結婚するのなら、私も遠慮ばかりしなくていいんじゃないか、と。
お互いを深く知るための婚約期間だ。言いたいことがあったら溜めずに言おう。
最初から我慢していたら、それこそ夫婦生活が苦痛になってしまう気がするから。