とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
 安い言葉で乾いた心に亀裂が入る。憎くなかったし、昔のことはもう何も思っていなかった。街中ですれ違っても、きっと私は気づかなかった。

 でも今は違う。この人が憎い。嫌い。大嫌い。

「今更だけど、俺、華怜さんが当時、好きだったんだ。だから、再会してその気持ちが燃えたってわけじゃない。今もまた君に惹かれていると思ってほしい」

「そうですか」

 昔の贖罪じゃないと言いたいのだろうが、私にはどうしても彼の気持ちを知りたいと思えない。

当時、きっと私も貴方が好きでした。

そんな言葉言えない。私たちは過去系両想い、現在進行形ですれ違っている。

ただそれだけ。

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