キミの嘘
「杏、遅れるぞ」
「はーい」

バタバタと家を出る。

今日もいい天気。
梅雨明けして、いきなり暑い夏がやってきた。


「縁、私、いつも用意も遅いし待っていなくてもいいよ。」
「・・・・・杏のくせに何いってんだよ。俺がいないと遅刻だろーが。」


縁がいたずらっ子みたいな顔して笑う。
そして
わしゃわしゃと私の髪の毛に触れた。

「もう!ぐちゃぐちゃになった~」
「ごめんって」
反省してる素振りなんかまったくない。
そそくさと駅にむかう縁のあとを追いかけながらふと、いつごろからこうして毎日一緒に登校するようになったのか考えていた。

はっきり思い出せない時からすでに当たり前になっていた。

あれ、、
でもそういえば、少しだけ別々に登校していた?ような気がする。

いつだったか、、。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

学校までの通学時間は電車と徒歩で30分。
その30分は縁と過ごせる大切な時間。
見た目いい縁は他校の女子にも人気で歩けばすれ違う女子、電車でも縁に向けられる女子の視線を感じる。

縁は本当にモテる。
手紙もプレゼントも・・待ち伏せされることも多かった。


自分が妹でなかったら
あの子たちと同じように告白なんてできたのかもしれない・・なんて
いつも落ち込んでいた。

でも
自分はそんな資格がないのだからと思うようにしていた

妹でなかったら・・・
家族じゃなかったら何か変わっていたのかな。

「・・い、おーいい!」
「わ!びっくりした」
「びっくりしたじゃないよ。何朝からぼーとしてんの?おなか減ってんのか?」
けらけらと笑う縁の腕を軽くパチンとした。

「もう!そんなんじゃないもん」
「膨れるなよ~ただでさえ丸い顔がますます丸くなるぜ」

むか!

ぽこぽこと縁の腕をたたくわたしの動きを抑えこむかのように
やめろよ~と言いながらぎゅっと抱きしめた。

「・・・・」
「・・かわいいな。杏は」

どき・どき・・。

静かにして、私の胸の音。

お願い、縁に聞こえないようにして。

「朝から熱い抱擁ですか?」

いきなり、聞いたことのない声がした。

縁の背後に一人、長身の男の子。
モデルさんのような、端正な顔立ち。
縁と同じくらいの身長で、手足が長くて顔が小さい。

同じ学校の制服を着ている。
あれ?こんな男子いた?

かなりかっこいいのに話題にならないはずない。

「邪魔すんなよー。」
縁がため息をつきながら離れた。

まだ、体に縁の抱きしめられた感覚が残っている。
「久しぶりですね、縁。」
「久しぶりって、先週会っただろうが。つーか、二学期からじゃなかった?」
「予定がね、早まったんです。」

彼の言葉に、縁の顔が緊張していた。
「予定狂いすぎじゃね?まぁいいや。」
彼は笑った。
そのまま、、私に視線を向けて
「初めまして。
高来杏さん、ですね?」
「はい」
「今日から一年に転校してきた、蘇芳伊織です。」
「1年生!!」
思わず声が出てしまうくらい、大人びた彼にびっくりした。
「伊織、わざわざ挨拶だけしにきたわけじゃないだろ?」
さすが、縁、と呟いて彼は縁とヒソヒソ話をし始めた。
「わかった、じゃ、今週末」
蘇芳くんは、片手を上げて颯爽と歩いて行った。

「知り合い?」
「あー、同じ道場のやつ。」


あんな、細い体で武術なんてするんだ。
どちらかというと、生徒会とかしてそうなタイプ。

「、、惚れんなよ。あいつには、大切な人がいるから」
なぜか、縁は切なく呟いた。
なんで縁がそんなに悲しそうなのか、この時の私にはわからなかつた。



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