嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも




 「じゃあ、俺は緋色ちゃんって呼ぶね。あ、もう敬語も禁止で。」
 「………はい。頑張ります。」
 「緋色ちゃん。うん、頑張る、だよ?」
 「うん、頑張る………。」


 なかなか使わない言葉に、しどろもどろになってしまうけれど、緋色の言葉を聞いて、泉は満足そうに笑った。


 「デートの前に電話でも話そう。その方が俺も嬉しいし。」
 「は………うん、わかり………わかった。」
 「うん。少しずつ、頑張ろう。じゃあ、そろそろ帰るね。しっかり、戸締まりしてね。」


 泉はそう言うと、緋色にゆっくりと近づき、そしてあっという間に額に短いキスをした。
 何をされたのか、すぐに理解出来なかった緋色はポカンと彼を見つめた。


 「ゆっくり休んでね。俺のお嫁さん。」


 ヒラヒラと小さく手を振り、泉はドアを開けて出ていってしまう。
 バタンッ。ドアが閉まる音がやけに大きく感じた。そして、彼の背中が見えなくなった瞬間、緋色はずるずると座り込み、そして熱くなった額を触れた。


 
 キスをされたのは初めてだった。

 緋色は鼓動が早くなり、一気に恥ずかしさが増した。
 結婚するという事は、恋人以上の事をするのだ。緋色だってもう大人だ。その意味がわからないはずもなかった。


 「私、本当に結婚なんて出来るのかな…………。」


 真っ赤になった顔のまま、緋色はしばらく玄関から動けなくなりただ彼が去ったドアを見つめていたのだった。








 
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