嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも


 
 彼は薬局で消毒液と絆創膏を買い、近くの公園で手当てをしてくれた。
 小さな公園で、遊具は滑り台とブランコしかない。そのため、遊んでいる子どもや休んでいる大人も居なく、無人だった。


 「よし。これで大丈夫ですよ。」
 「…………ありがとう。」
 「あとは、靴を買って帰りますか?」
 「ううん。もうこのまま帰ります。……あ、眼鏡の弁償はさせてください。」


 そう言って、鞄から財布を取り出そうとした緋色を見て、彼は「いいですよ!」と止めた。
 けれど、人にぶつかり物を壊してしまったのに何もしないわけにはいかない。


 「でも……………。」
 「あの…………1つ、聞いてもいいですか?」
 「何?」
 「お見合い、どうして逃げてきたんですか?」


 着物を着た女性が、高級料亭から草履も履かずに飛び出して来たのだ。お見合いをしていたのだろうというのは、何となく想像が着くだろう。
 
 初めて会った人に、何故話さなきゃいけないのか。そんな気持ちもあった。けれど、ここまで助けてもらったのに、何も話さないのも申し訳なくなり、緋色は小さな声で話しを始めた。


 「お父様のがどうしてもって言うお見合いだったの。もう31歳だし、そろそろ結婚して欲しいみたいだったし。お見合いに行くぐらいならいいかなって思ったんだけど………。その、お相手、私には合わなくて。それで、逃げてきてしまったの。」
 「………そうだったんですね。」
 

 緋色は大きくため息をついた。
 1度話し始めたら、止まらなくなり一気に話しをしてしまった。
 会ったばかりの人に、しかも自分よりも年下であろう男性に何を話しているのだろうと、緋色は苦笑してしまう。
 けれど、何も言わずに聞いてくれる彼の存在は今は嬉しかった。



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