一生に一度の「好き」を、全部きみに。

葵の話題になるとなんとなく空気が重くなる。

それはきっと、俺の心の大半を占める存在だから。あいつもがんばってるんだから、俺もがんばらないと。そう思って何度も忘れようとした。

でも……。

「お前の動画、観てくれてるといいな」

「なんだよ、それ」

「だって咲が動画配信し続けてる理由って、葵ちゃんだろ?」

「別に、そんなんじゃ……」

「隠すなって。今でもお前はベタ惚れだもんな。相変わらず女の子には冷たいし。お前を紹介しろって俺に声かけてくる子、めっちゃ多いんだぞ」

「知らねーよ、そんなの」

「断るのが大変な俺の身にもなれよ。そのせいで花菜ちゃんには誤解されるしさ。せっかく付き合えたのに、このままじゃ振られちまうよ」

翔の言葉を右から左に聞き流す。

参考書からそばにあったスマホに視線をやる。そしてメインで活動しているSNSを開いた。

通知欄にたくさんのコメントがきている。

作詞、作曲した自分の歌を動画で配信し続ける理由は、葵が俺の歌声を好きだと言ってくれたからだ。

アメリカにいるはずの葵に届けばいいと切に願いながら、気持ちを込めて歌っている。

観てくれていなくてもいい。ただの自分の自己満足。

忘れられない、忘れたくない、大切でかけがえのない葵に──。

どうか届いてますように。

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