Before dawn〜夜明け前〜
「お、早いな、お嬢、黒川」

およそ弁護士とは思えない口調で矢野はいぶきと黒川を出迎えた。

「おはようございます、矢野先生。
今日はこの後、一条と契約なんです」

「そうか!いよいよだな。
スーツもバッチリ決まってるぞ。それはあのオカマのところのかい?」

「いやだ、先生が服を褒めるなんて。
雨が降らないといいけど。そうです、ジュンさんに仕立ててもらった服ですよ。

それより、先生」

いぶきがここに来た理由は、一つ。
矢野は一冊のファイルを手渡した。

「風祭英作は、こちらの思い通りだ。
娘はかろうじて、執行猶予」

「流石、矢野先生。
ありがとうございました。
風祭とは、これで本当に終わりな気がします」

「うん。
もう、忘れていいだろう、お嬢。
これからは、桜木と一条のことだけでいいさ」

いぶきは大きく頷いた。

ずっと心に巣食っていた、風祭の呪縛からやっと解放された気がしていた。



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