Before dawn〜夜明け前〜

不戦敗

「やぁ、高司先生」

もうまもなく正午になろうかという頃、高司の元に拓人が現れた。

「副社長、お疲れ様です」

高司は手を休め、拓人に小さく頭を下げる。

「どうだい、彼女は?」

「副社長、まずは私の質問にお答えください。

一体どうやってあの先生を見つけてきたんです?
いや、あのジェファーソン法律事務所に在籍しているだけでも優秀な事はわかりますが…」

興奮している高司の視線の先にいぶきは居た。
来客用のローテーブルに身をかがめ、ペンを走らせている。

「使えそうか?」

「とんでもない戦力、即戦力ですよ。
キレすぎて、怖いくらいです」


「高司先生」


いぶきは書類を手に高司の元へつかつかと歩み寄る。そこで拓人の姿を見つけ、小さく頭を下げた。

「一条副社長、本日よりよろしくお願いします」

「あぁ、こちらこそ。
黒川は?」

「今、資料集めに行ってます」

あまりに簡単な挨拶に、恐らくこの場の誰も二人の関係に気づきはしなかっただろう。

「先生、この部分なんですが」
「うわ、もうこんな所まで目を通したのかい?
そこはだね…」

いぶきの問いに高司は唸りながら答える。

「なるほど分かりました。
問題は、この部分ですね」

「このわずかな時間にそこまでやるとは。
桜木先生、すごいですね」

ここで照れたりすれば可愛げもあるのだが、サラリとかわしていぶきはまた机に向かう。

「うーむ、ジェファーソンからの資料にあった通りの“クールビューティ”だなぁ」

高司は、いぶきの背中に呟いた。



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