Before dawn〜夜明け前〜


『青山いぶきさん。あの子は秀才です。
さすがは、風祭さんの血を引くお子さんですね。
あの一条ですら、感服していましたよ。
あれだけの頭脳がその手中にあるとは、実に素晴らしいことです』

ここは、こんな感じで、直接理事長に電話をして貰おう。
さすがの風祭も、そこまで言われて嫌な気はするまい。少しはいぶきへの態度も変わるかもしれない。


ーー直接この腕で守ってやれない俺を許せ、いぶき。


風祭くらい、一条なら潰せるだろう。だが、それでは、いぶきが父親という保護者を失ってしまう。
いぶきは、まだ16歳。一人で生きていくにはまだ、早い。かと言って、拓人が彼女の面倒を見てやることは、できない。
今でさえ、学業と家業の手伝いで手一杯だ。

それに相手は一応、長い事務めている代議士で、決して侮ってはいけない相手。


「…あ、一条くん」

職員室からの帰り、廊下で保健医が拓人を呼び止めた。

「今朝、あなたが連れてきた一年生の女の子。
解熱剤で熱が下がっただけで、もう教室に戻って授業受けてるのよ。
今、様子を見てきたんだけど、涼しい顔して“もう治りました、大丈夫”だなんて。
あの背中、相当痛むはずなのに」

ーーいぶきのやつ。

拓人は、チッと舌打ちをした。

「分かりました。
後はこちらでなんとかします」

「そう?一条くん、お願いね。先生達に相談しても、あの子のことは放っておいた方がいい、としか言われなくて」

拓人は、すぐに携帯をとりだした。
画面に『一条翔太』の名を出す。仕事中でも拓人からの電話なら出るはずだ。

ーーお、2日連チャンで拓人から電話なんて、なんか縁起でもねーな。

軽い口調の相手に対して、拓人は有無を言わせず一言二言つぶやいた。

ーーわかった!可愛いイトコ様の頼みならOKだよ〜!
その代わり、おっかない父さんには拓人から上手く言ってくれよ!昼に抜けても、サボりじゃないって。じゃあ、後でな。

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