俺様課長のお気に入り
翌日、ランチタイムになると、坂田君が総務課に迎えに来た。

「陽菜、行くぞ」

本当は、エントランスで待ち合わせでよかったんだけど……

「あれ?陽菜ちゃん。今日は同期の子とランチ?」

同じ課の人に、不思議そうに尋ねられた。
いつもはだいたい、夏美先輩と2人で食べるか、そこに山川さんも加わった3人で食べることが多いから。

「そうなんです。行ってきますね」

陽菜がいなくなると、総務課の男性社員の間にどよめきが広がった。

「あれ?2人で行ったのか?ケイ君はいいのか?」

「岩崎さんは?」

夏美は一人、心配そうな顔をしていた。



坂田君が連れてきてくれたのは、会社の近くのカジュアルな中華料理店だった。

「陽菜、このお店はどれを選んでもハズレがなかったぞ」

「本当?じゃあ、何にしようかなあ……」

そうは言ったものの、あまり食欲がわかない。

「陽菜、食べないとダメだぞ。いくつか選んでやるから、取り分けよう」

「うん」


告白されて、一人意識しすぎていたけど、坂田君はいつも通りに接してくれる。
要君のことで落ち込む私を、元気付けようとまでしてくれる。
そんな坂田君の前で、沈んだままなのも悪い気がして、無理矢理にでも明るくした。

「本当、どれもおいしいね。家でも作ってみたいけど、難しそうだなあ」

「陽菜って、料理するの?」

「一応。一通りはできるつもりだけど?」

「じゃあ、今度作ってよ」

「そ、それは……
坂田君、私……」

「陽菜、なんとなく今言おうとしていることが、わかるんだけど……」

そう言って、坂田君は表情を曇らせた。

「でも、ちゃんと聞かないとな」

私が話すのを促してくれた。

「私ね、坂田君に告白されてすごく驚いた。でも、誰かに〝好き〟って言われることは嬉しいって思った。
坂田君は、勇気を出して本音をぶつけてくれたんだから、私も素直にならないとね。
私ね、やっぱり岩崎さんのことが好き。彼が私のことをなんとも思ってなくても、私自身の気持ちは変わらないの。
だから、坂田君の気持ちには応えられない」

「……わかってたんだ。本当は、陽菜がそう言うだろうって。
でも、俺は陽菜に告白したことを後悔してない。自分の気持ちをちゃんと伝えられたんだから、振られたのに、今すっきりしてる。
だから、陽菜。お前も頑張れ。それで振られたら、俺が慰めてやるから。いつまでも、そんな暗い顔してるなよ」

「坂田君……ありがとう」

「ああ……振られたなあ。でも、これからも同期として、変わらずいてよ」

「うん」

その後も、坂田君の気遣いもあって気まずくなることなく、思いの外楽しい時間を過ごせた。
坂田君のおかげで、少しだけ私も元気になれた。

「陽菜。俺の気持ちは別として、またケイ君に会わせてよ。あいつ、かわいいからさ」

「もちろん」

坂田君は最後まで優しくて、私は心の中で彼に感謝した。


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