蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 脳内では母の言葉が呪詛のように回り続けている。

『絶対に粗相のないように。このお見合い、必ず決めてきてちょうだい。白川家の運命は乃梨子にかかってるのよ』

(わかってる。わかってるわよ)

 母の気合いにより、キリキリに締め上げられた胴体でなんとか呼吸しながら、心の中で言い返した。母に言われなくとも、実は私自身もこの縁談にかなり乗り気なのだ。


 お見合いの相手は、私が勤務する橘ホテル東京の営業企画部部長、橘恭平だ。私の直属の上司でもある。

 彼が社内でプリンスと呼ばれているのは、甘く優しい端正な顔立ちと気品あふれる物腰のせいだけではない。橘ホテルグループ社長の甥である彼は、次期社長と目されているサラブレッドなのだ。直系血族ではない彼がそのような期待を背負うのは、現社長が子供に恵まれず嫡男がいないせいらしい。そのため橘部長は、女子社員たちの注目の的となっている。

 そんな彼と、しかも上司である彼と、どうして私がお見合いすることになったのか。

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