蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 数日前に病院まで父のお見舞いに行ったら、父は鼻に酸素吸入のチューブをつけた痛々しい姿でしきりに蓮司さんとの結婚式を早く見たいと言っていた。

 帰り道、なんだか切なくて申し訳なくて、電車の中で何度も涙を拭った。
 お父さん、ごめんね。親孝行したくても、こればかりはどうしようもないの。頑張って会社を継ぐから許してね。


 退職や父のことを考えると余計にみぞおちのあたりがキリキリしてきたので、スチームミルクの柔らかな泡で喉を潤した。ミルクのかすかな甘みが胃に心地よく染みる。

 蓮司さんのマグはいつも通りブラックだけど、今夜は私に合わせてデカフェなのだろう。そのデカフェの粉だって、私のために取り寄せてくれているはずだ。素っ気ないようでいて、私がカフェインに弱いことを実はちゃんと気づいてくれている。


「ねえ」


 ホテル専門誌を読み始めた蓮司さんに話しかける。
 彼が社長の実子だということを彼の口から聞きたかった。気楽な調子で軽く訊けば、案外ポロリと言ってくれるかもしれない。確かめたいのではなくて、彼が私に心を開いてくれている証がほしい。


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