蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 三カ月という月日は短いようで長い。探せば出るわ出るわ、家中のいろんなところに私の物が入り込んでいた。
 床の間に飾ったお花。バスルームに置いてある肩こりローラー。ひそかに愛用していたこれは彼にばれて公認になったものだ。今では冷蔵庫の中に常備しているカップ酒とイカゲソとチータラ。残しておいても綾瀬花音に捨てられるのかもしれないとまた勝手に想像し、それらをスーパーのビニール袋に入れていく。

 冷蔵庫の物を回収した私はふと足元を見た。キッチンの片隅には、天袋に手が届かない私のために彼が買ってきてくれた踏み台があった。


『俺がいないときはこれでなんとかしろ』


 リビングのソファーの前には私がいつでも脚をあげて寛げるよう、今ではフットレストが置いてある。あのカップ酒がばれた夜に私が椅子に脚を上げていたのを見て、あのあと彼が買ってくれたものだ。

 洗面所の歯磨きチューブは、最初は右側に置いてあったのに今は左側だ。サウスポーの私がつい左に置いてしまうので、いつのまにか彼もそうしてくれるようになった。

 まだまだたくさんある。彼が私のために合わせてくれたこと、変えてくれたこと。


 胸に抱いたビニール袋に雫が一滴落ちた。
 泣いちゃダメ。弱くなるから泣いちゃダメ。

 それでも雫の雨はしとしとと降り続ける。
 怒りを前進する勢いに変えて出ていこうとするのに、彼を悪役にして想像しようとしても、この家にも思い出にも優しさしか見つからない。


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