極愛恋情~敏腕CEOに愛し尽くされています~
「おはようございます。エレベーターに乗り遅れちゃって」
「あー、走ったぶんだけ損した気分になるよな」

 井野さんは、すっとエレベーターのボタンを押し、続けて言う。

「最近、調子はどう?」
「人事異動って酷なときありますよね……」
「まーた、揉めてんの?」

 私がため息交じりに愚痴をこぼすと、井野さんは苦笑した。

 少し前から私は、売上低迷の対策という名目で人事異動があった担当店舗について頭を抱えている。

 その店舗には、これまでとは百八十度タイプの違う店長が就任し、スタッフが折り合いが悪いとしょっちゅう訴えてくるのだ。

「人には合う合わないっていうのがあるのはわかるから……こう、もどかしい気持ちもないわけではなく……」

 確かに、前の店長とスタッフは和気あいあいとして雰囲気はとてもよかったんだけれど、競争心がなくて売上が落ちていった。

 そのため、数字管理に定評がある今の店長が赴任してきたのだが、彼女は職場での慣れ合いを許さないから、スタッフとの関係がギスギスしているというわけだ。

「お前が悪く思うことじゃないだろ。結局、人を動かすのは上が決めることだし」

 井野さんにポンと肩を叩かれ、気持ちを切り替える。

「そうですよね。ところで、そちらの新店の準備はどうですか?」
「着々と進んでるよ。オープニングスタッフには選りすぐりの社員集めたし、心配ないだろ」
「実は、そっちにうちのホープを持っていかれたのもあって、厳しいんですよね……」
「あっ……そうだったか。悪い」

 ばつが悪そうに首を竦める井野さんに、私は慌てて笑顔を向ける。

「いえ、それだって井野さんのせいじゃないですし。それに、私も今回の〝M-crash(エムクラッシュ)〟の新店は絶対に成功してほしいし。あの有名な〝Sakura〟監修の商品が並ぶ予定なんですから!」

 そう。今の私はそれが一番の楽しみ。
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