きみのための星になりたい。

問題は、県立大学の入試に使用されたということもあってか、今まで解いてきたものよりは少し難しく感じた。けれど、二十五分くらいあれば一通りは解ききることはできた。

とはいえ、合っているか自信がないものもあるから、そこだけでも一通り見直しをしておこう。そう思い見直しを始めた私。だが、それも十分程度で終わってしまった。

私は手に持っていたシャーペンをコトリと机上に置くと、問題集から目を逸らし、視線をチラリと前へやった。そしたらそこにはまだ懸命に問題に取り掛かる柊斗がいて、背中しか見えないものの、その姿勢はカッコいいと少し感激する。

……そういえば、最近、柊斗との距離が縮まったなあと、そんなことを考え始めた。

人見知り同士、普通に話すことはあっても仲良くなれることはないだろうと思っていた最初の頃。というか、過去のこともあり、怖くてあまり大勢の人と深く関わろうと思えなくなった消極的な私は、正直塾でもあかり以外の人と仲良くなろうと思っていなかった。

けれど、なぜか私はとても柊斗と話すようになった。柊斗も人見知りということもあるのか、あかりや悠真くんのように次々と話を振ってこない。もちろんあかりたちのそれが嫌なわけではなくて、むしろいつも面白く話を進めてくれるふたりには助かっている。

……でも、柊斗は、上手くは言えないが今まで出会った人の中でも何かが違う。

一度、塾が終わった後ゆっくり彼と話す機会があった。そのときに流れる彼との時間がとてもまったりとしていて、私が一生懸命話そうとしてくれることを微笑んで聞いてくれるから、それがすごく心地よかったのを覚えている。

友達との関わりに失敗して臆病になり、自らの思いを口にするのが苦手になった私がこんなことを思うのはこれが初めてで、自分でも驚いた。

実はそのときにメッセージアプリのアカウントも交換し、気軽に連絡を取れるようにもなった。それからは数日に一度、他愛ない会話をアプリ上で繰り広げている。

そうしているうちに私たちは、〝柊斗〟〝凪〟と、互いに名前を呼びあうようになったのだ。

「……はい、辞め。今回の問題はちょっと難しかったか?それじゃあ残り時間で解説していくぞ」

ボーッと考え事をしているうちに、五分ほど経ってしまっていたみたいで、先生の声でハッと我に返る。

……いけない。今は授業に集中しなければ。

そう思い、私は慌てて机上に置きっ放しにしていたシャーペンを握った。
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