きみのための星になりたい。

「……だけど」

少しの沈黙の後、柊斗が再び口を開いて何かを言おうとしている。だから私は柊斗の方に視線を向け、その続きに耳を傾けた。

「後悔、してるんだ」

一度だけ言いにくそうに眉間にしわを寄せ、言葉を詰まらせた柊斗。けれど目を閉じて数秒深呼吸を繰り返した後、喉に引っかかっていたままの言葉を押し出してくれる。

「後悔……?」

首を傾げて聞き返した私に、柊斗はコクンと首を縦に振る。その後悔の内容は、この後の柊斗から明らかになった。

「日菜は、初めて母さんからひどい言葉を投げられた時、まだ七歳だった。そしてそれから何年も、変わることのない恐怖に襲われる生活が続いた。今はやっと母さんが精神科に通院し始めて、落ち着いてるけど。それでも幼い時から日菜には怖い思いをさせて、結局日菜を守ってやれなくて。ただ日菜を抱きしめて、一緒に怯えることしかできなかった。それは今でも、罪悪感というか、上手くは言えないけど。俺の心の片隅にずっとある」

それを聞いて思うのは、柊斗はとても優しいということ。

確かに日菜ちゃんはまだ幼かったかもしれない。けれどそうなら、柊斗も今よりずっと幼かったはず。初めて暴言を受けたのは小学六年生の時だったと柊斗は言っていたけれど、年齢にすれば十一か十二だ。

……まだまだ、柊斗も子どもじゃないの。

それなのに妹を守ることばかりを考えて、今もなお妹のことを思い後悔している。それを聞いた私は、柊斗は妹思いの優しい人だと心の底から思う。

私は柊斗の横顔から視線を前に移すと、右手を柊斗の背中に添え、ゆっくりとさするように撫でた。掌から伝わるその柊斗の温もりがなぜだかとても愛しく感じて、溜まりきっていた涙がとうとう私の頰を伝う。

柊斗はそんな私に気が付き、こちらを見つめているのだろう。ひしひしと視線を感じる。

「ねぇ、なんでそんなに凪が泣くの?」

小さく笑みをこぼした柊斗は、少し身体をよじると指先で私の涙を掬ってくれる。

「……分からないよ」

泣きじゃくりながら放った私の言葉に、「そうだよね、分からないよね」と、また柊斗が優しく笑った。

その笑顔がより私の涙を誘い、溢れるものは止まることを知らない。でも、本当に分からないんだ。なぜ自分がこんなにも泣いているのか。

ただ悲しくて、つらくて、苦しくて、痛くて。柊斗から語られる現実は、想像もつかないほど様々な感情に囚われていた。

それら全てが私の心の中でごちゃごちゃに混ざりあって、やるせないこの気持ちを一体どこにぶつけたらいいのか。
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