あなたに捧ぐ潮風のうた

　小松家と門脇家には少々確執がある。

　──いや、正しくは、父教盛と叔父清盛である。

　先の鹿ケ谷の陰謀の首謀者とその一族、関係者は、皆刑に処された。

　だが、その首謀者・藤原成親そのひとの息子は、教盛の娘婿であった。

　その娘婿の助命を清盛に嘆願したのが門脇家である。

　その時、無論清盛は激怒した。

　反逆者を断罪するのに、そのような馬鹿げた特別扱いの理屈が通るか、と。

　しかし、教盛も負けじと「娘は身籠っている。その父親を殺すことは、まだ見ぬ子供を不幸にしてしまう」と言い返した。

　流石の清盛も弟の泣き落としには堪えたのか、一時娘婿は門脇家の屋敷に預けられた。

　結局は薩摩国鬼界ヶ島に流刑されたが、中宮徳子の出産祈願の大赦として、彼は再び京の地を踏むことを赦された。

　──それ以来、門脇家は平家打倒を企てた男の息子を守ったと、密かに平家の中では後ろ指を指されている。

　敵方の人間を守ったからではなく「平家に楯突いた」人間を守ったからだ。

　これらの諍いも、教経と宗盛が対立する一端だろう。