レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
僕としては、青説殿下の仰りようは最もな気がするけど、ルクゥ国の人間としては、王の気持ちに賛同したい。母国がそんな行動に出たら、祖国に対して失望しか残らない。そんなことは、悲しいことだ。
二人はこの話し合いを何度も重ねていた。初めは二人だけで内密に話し合っていたのだろうけど、この数週間は至る所で露骨に議論している。
議論というよりは、青説殿下の一方的な嘆願を紅説王がはねつけているといった感じだったが、他国籍の僕らは正直、肩身が狭い。誰もこの話に入ることは出来なかった。だから、僕はいつものように静観した。
二人はしばらくにらみ合い、
「もう下がれ、青説」
紅説王はうんざりするように言って、青説殿下から顔を逸らした。
青説殿下は憤りを露にしながら、踵を返した。殿下を目で追っていくと、隠し扉の前にはいつの間にかムガイがいた。ムガイは殿下に道を譲ると、殿下の後を追うように研究室には入らずに、そのまま出て行った。
(ムガイは何しに来たんだろう?)
「すまないな。レテラ、みっともないところを見せた」
「いえ」
僕は返事を返しながら振り返ると、王は困ったように眉を下げた。小さくため息を零して、椅子から立ち上がる。
「もう少し寝ていらしたらいかがです?」
「いや。もう行くよ」
椅子を指して促した僕に、小さく手を上げて王はそれを制した。王はぐるりと研究室を眺めると、苦笑を漏らした。
「おかしな話だな。寝室よりもここの方が落ち着くなんて」
そして、照れたように笑いなおす。僕は心配になって尋ねた。
「眠れないんですか?」
「ああ。布団の中にいると、色々考えてしまってね」
「そうですか……」
なにか、良い方法はないものか。
僕はしばらく考えて、
「温かい飲み物を飲んでみてはいかがでしょうか? 温かい飲み物は体の温度を上げますから、下がる頃に眠くなると言いますし、カモミールなんかどうでしょう?」
王は僕の提案に、「ありがとう」と答えてにこりと笑んでくれたけど、小さく頭を振った。