レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
「それにね、このまま世界状勢が不安定で、このまま解決策が出ないままだと、もしかしたら――」
晃は言葉を区切った。不安な色がその目に宿る。
「各国は条国を狙うかも知れない。そうしたら、火恋様はどうなるの? 弟達は?」
「……それは」
火恋は王族だ。しかも、オウスはこの王都と一直線の位置にある。もしもオウスの城に敵兵が責めてきたら、火恋は真っ先に殺されてしまう。晃の弟達は今はそれぞれ違う都市や村に住んでいるけど、戦争ともなればどうなるか分からない。
「わたし達は、解決策を出さなきゃいけないの」
晃は快活に言った。
晃の決意の固さは揺るがない。瞳がそう物語ってる。晃の言い分は分かる。もっともだとも思う。それでも、僕は頷けない。頷けるわけがない。
ぼろぼろと零れ落ちる涙を、晃の華奢な指がなぞるように拭った。
「ありがとう。レテラ。こんなにわたしのことを想っててくれて。全然、知らなかった」
晃は瞳を潤ませながら一瞬目線を畳に落とすと、僕を熱い瞳で見た。それは刹那的にすぐに消え、晃は瞳を潤ませたまま笑った。
「本当に、嬉しい」
涙がひとしずく零れ落ちて、晃は目元を指で拭った。僕はたまらなくなって、晃を抱き寄せた。力いっぱい抱きしめる。
「晃、行かないで。僕がなんとかするから、絶対なんとかするから」
「……」
当てなんかない。他の探知能力者を犠牲にしても晃は喜ばない。だけど、晃が死ぬよりマシだ。晃さえ生きていてくれればそれで良い。
「好きなんだ、晃」
関を切ったように、溢れ出した。
「愛してるんだ」
声が震える。
「だから、お願いだから、死なないで」
晃に縋りつくように、しがみついた。
「死なないでよ」
「……レテラ」
僕の無様な懇願を、晃は優しく跳ね除けた。
「ありがとう。でも――ごめん」
僕の胸をそっと押して、開いた隙間から晃は僕を見上げた。涙で濡れた瞳は、哀しげに別れを告げ、震える声が告白の返事を返した。
「ごめんね」