レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
一話
 その日は珍しく、冬だというのに暖かい日だった。
 陽光が、連立する柱の隙間から、走っている僕を射す。

(早く庭に出なくちゃ)

 焦りながら、見え始めた庭をちらりと一瞥する。駆ける足に更に力を込めた。
 遅れたらコトだ。今日の式典は、僕が主役でもあるんだから。

(でも、主役なんて柄じゃない。僕は他人の人生を観ていたいってのに……。まあ、それ故に、今回の任務は楽しみでもあるわけだけど)

 僕は、自分の頬が緩むのを感じた。
 僕に白羽の矢が立ったのは、三ヶ月前のことだ。

 いつもと同じように記録係の任に就いていた僕のもとに、上官から呼び出しがあった。

 記録係は、内勤と外勤があって、内勤は主に城中で起こった物事を記録していく。その中でも王宮に就ける者はほんの一握りだ。

 そんなところに僕が就けたなんて、今でも信じられない。二年前の僕はよっぽど運が良かったんだろう。

 記録係は内勤と外勤だったら、内勤の方が地位は上だ。だけど、僕は外勤に出たい。給料も少し減ってしまうし、命の危険に遭うこともあるけど、それでも僕はずっと外勤の任に就きたかった。

 外勤任務は、主に国外で行われる。

 軍について回り、戦況を記していくのが殆どだけど、中には間者のような危険な仕事をする者もいる。

 だからこそ僕は、やってみたかった。

外の世界へ飛び出して、色々なことを記したいとずっと思っていた。

 その機会が与えられたことに、僕は今、体が震えるほど興奮してる。僕が注目される不満なんて消し飛ぶくらいに。

 上官から今回の任務を聞いたときは、泣いて喜びたいくらいだった。

 僕は今日、条(ジョウ)という国に行き、外勤の任に就くのだ。間者をするわけではないけど、条国に赴いて、そこで集められた各国の猛者達が計画していく作戦の一部始終を記録する。それが今回の僕の任務だ。

(まあ、他にも仕事はあるんだけどね……)

 僕の生まれたこの世界には、五つの国があり、世界地図で見ると、大地の形は龍に似ている。
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