レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
二十話

 僕はあの後、祖国へ帰り、偽りの証言をした。
 処刑場のやぐらの上で、僕は指示されたとおりに熱弁を振るった。
 民衆は僕に注視し、怒りをあらわにしたり、泣き出したり、失望したりした。真実を知らずに。

 そして僕が処刑台を降りて、その正面に立てられている物見席に行くと、すぐに紅説王は処刑台に立たされた。

 公開処刑場のやぐらの上で、何も知らない民衆に罵倒されてもなお、王は堂々としていた。国を焼かれ、何の罪もない民を虐殺され、各国に裏切られても、彼は恨み言一つ叫ばずに、澄んだ瞳で彼らを見ていた。

 まるでこうなることが予め解っていたみたいに。
 そう思って初めて、あの言葉の意味が理解できた。

 王は殿下に転移のコインの回収を求められたとき、今は間が悪いと答えた。人心が揺れ、世界が条国滅亡へと走り出すのを予知なさっていたのだ。

 どうしてだろう? 僕は王に食い入った。ギロチン台に首をもたげた王は、静かに目を閉じている。

 もしも予見していて、一つの未来の可能性だとして腹に据えていたとしても、どうして恨み言一つ漏らさないんだろう。

 もしかしたら、あかるに逢いに行けるから? いや、あかるの魂は今もまだ晃と供に魔王の中に捉えられている。そう。晃と共に……。

 紅説王を責めそしる声が僕を包む。
 何も知らないくせに――。

 憎悪が懇々と沸き起こってくる。
 どす黒いものが喉の奥まで来たとき、紅説王の頭上で斧が振り翳された。

 僕は思わず目を瞑った。
 鈍い音が響き、甲高い歓声が上がる。
 僕は唇を噛み締めた。

 そっと開いた瞳に、紅説王の首をおもちゃのように持ち上げる死刑執行人が映った。
 僕は、さらされた紅説王の首を見つめた。僕には、最後まで彼が理解できなかった。でも、三条紅説がどのように生き、死んだのか、その事実だけは知っている。
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