レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
「私、三条の名を継いだのですわ。必ず、やつらから条国を奪い取り、蘇らせて見せます。他にも一族の者が生きているんですよ。今一緒に追われながらですけど、旅をしてます」
「どれくらいいるんだ?」
「六十人ほどですわ」
「すごいな。良く脱出できたな」
「一族は全て王都にいるわけではありませんもの。私だって別の町にいたでしょ? いち早く陽空さんが気づいて逃がしてくださって、転移のコインで別の町の一族に知らせたんです」
「でも、それなら追手っていうのは――」
僕は自分で言いかけて気がついた。
呪符は思ったとおり呪術師にしか使えなかった。そのことにすぐに気がついた各国の王は、魔竜を条国の密林地帯にあった洞窟に運んで行き、魔竜を結界で塞いだ。
マルによって守られた二条の者達は、そのまま魔竜の守り人として生きることになった。
今から思えば、魔王が魂を無作為に吸い出す対策として、結界を張り替え続けるという案は、重大な欠点だった。
何故なら、結界師がこの世からいなくなってしまったら、魔王は近づく生き物を片っ端から殺していき、その暴挙を止める者は誰もいなくなってしまうんだから。
それをマルは気づいていたんだと思う。でなかったらあの場で、あの取引に持って行くことは出来なかっただろう。
欠点を生かし、マルは一族を守ったんだ。
だけどその一方で、他にも条国王家の生き残りがいると噂が流れていた。番兵が冗談半分で話していたのを聞いたことがある。それが火恋達だったんだ。
火恋は言いずらそうに話し出した。
「王家の中でも、呪術者でなければ魔竜は操れません。でも、そのことを知らない者は多くて、私達がそうだとバレると見境なく攫われるんです。特に、子供や女性が。そして、扱えないと分かると殺されます」
憎々しげに火恋は吐き棄てた。
「最初は、一緒に逃げ出せた一族は百人ほどいたんですよ。それが、五ヶ月で……」
言いかけて、火恋は振り切るように首を振った。
「負けない。負けませんわ。必ず、本懐を遂げてみせる」
火恋は、真剣な表情で言い聞かせるように呟いた。僕にはその顔が思いつめているように見えた。手を握り返す。
「火恋。お前の両親は生きてるよ」
「え?」
火恋の瞳に動揺が走る。
「マルが守ったんだよ。今、条国の密林で魔竜を監視してる。各国から監視されてるだろうけど、お前とアイシさんだけなら潜り込めるはずだ。アイシャさんは肌の色っていう問題があるけど、侍女や下女、もしくは家庭教師だとても言えば納得するはずだ。それでそのまま御両親と暮らした方が良い。まさか、死んだはずの人間がいるなんてやつらも思わないだろう」
「死んだはず?」
しまった――。
僕は口を塞いだけど、もう遅かった。火恋は胡乱気に訊いた。