レテラ・ロ・ルシュアールの書簡

「この日輪国に居つく前、ほら、百年くらい前までは戦争があったじゃない?」
「ああ。それぞれの国で色々あったみたいだな」
「うん。でね、僕らの一族は傭兵として雇われて色んな国で戦ってたらしい。戦争が全て終結、というか今も休戦状態だけど、とりあえず一段楽して、それで曾爺ちゃんの時代からこの国に居ついてる。でも傭兵時代はかなり恐れられる存在だったんだって」
「へえ……そうだったんだ。でもなんかかっこいいよな」
「うん。そう思うよね。でも、曾爺ちゃんからその話を訊いたとき、僕なんだか哀しかったんだ。――曾爺ちゃんの目が、すごく辛そうだったから。それを、これを読んでて思い出しちゃってさ」

 若葉は静かにため息をついた。
 陽空はどことなく心配そうな表情で若葉を見つめる。

「歴史書にはこんな事実は載ってないし、一族にも伝わってない。もしかしたらまだどこかに事実を書き記した書物があるかも知れない。僕さ――」

 不意に、若葉は真っ直ぐに陽空を見た。

「全世界の歴史を学んで、書物にしたい」

 その力強さに息を呑む。
 普段は大人しく、大して覇気もない若葉が、真剣にしたいことを望んでいる。陽空は自然に頷いていた。

「ああ。俺も」
「ならば秘密裏に行おう」

 急に降ってきた声に驚いて二人は振り返った。

「ハナシュ教授!」

 若葉が声高に叫んで、慌てて立ち上がる。ハナシュ教授はにこやかに笑みながら、座りなさいと手で合図を送った。若葉が再び座ると、ハナシュ教授は二人の前にやってきてしゃがみこんだ。
 内緒の話というように、声を細める。
< 215 / 217 >

この作品をシェア

pagetop