レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
十話

 僕らに、やつの猛攻を止める術はなかった。
 どうにかして能力をなくす方法は無いか、倒す術はないかと模索し、実験を繰り返すこと、早五年。

 僕も皆も、あのヒナタ嬢でさえ、あらゆる実験や研究に参加してきたけど、決定打となるものは一切なかった。

 ただ幸いな事に、何故か魔竜は人間の命を狙わなかった。
 退治しようとしたり、実験結果を試すために赴けば、何人か殺されて帰ってくる事はあったけど、それ以外で人間が襲われたことはなかった。

 でも、僕にはそれが不気味だった。

 人間以外の動物は、この五年間で十億近く死滅した。中には絶滅した動物やドラゴンもいる。ただ、ドラゴンは他の動物に比べれば被害数は低い。

 この数字は明らかに異常だ。
 やつが食うためではなく、殺すために命を奪っていることは明確だった。

 何故、人間だけが狙われないのか。
 各国の信心深い教徒たちは、神の御心の成せるわざだと口々に言い、祈りを深くしていると聞いたけど、僕にはそうは思えなかった。

 理由の一つとしては、紅説王の御話を聞いていたからだろう。
 魔竜にも心があって、人間に復讐しようとしているのなら、人間ではない動物を絶滅させていくことで、恐怖心を徐々に植えつけていき、人心が恐怖にまみれたときに殺しに来るのかも知れない。

 やつが自暴自棄なっているのだとしたら、食べ物の心配などしないだろう。やつは、自分も死ぬ覚悟で全ての生物を滅ぼしにかかっているのかも知れない。
 そう考えると、心底冷える思いがした。
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