優しい彼と愛なき結婚
プロローグ

桜が舞う春。
温かい陽気の中、爽やかな風が吹き抜ける。

大悟さんと結婚して、1年半以上が経った。


「大悟さん、日曜日に歩夢がケーキを作ってくれるって言うからフリースクールに届けてもいい?」


「マジ?一緒に行こ」


ワイシャツのボタンを止め終え、大悟さんはキッチンに立つ私を見た。



「優里の両親の墓参りはいつにする?歩夢とばあちゃんの予定も聞いといて」


そう言いながらネクタイを手に取り、いつものように私へ差し出す。

エプロンで手の水を拭き、ネクタイを結んであげる。


「そうだね。2人に聞いてみる」


先週から赤羽電機で正社員として働き始めた大悟さんは、初日からスーツの窮屈さに文句を連ねていた。久しぶりにネクタイを結ぶものだから結び方を忘れたと私に丸投げしてきたためそれ以来、結んであげている。

本当は自分で結べることは分かっているけれどね。


「やば、もうこんな時間だよ。朝からレイの奴に呼び出しくらってるんだ」


スーツ姿の大悟さんにはまだ違和感がある。

黒色に戻した髪には寝癖がついていて、クシで梳かしてあげる。


「サンキュ。それじゃぁ、行ってきます」


「大悟さん、お弁当!忘れてるよ」


慌ただしく玄関に向かう大悟さんを追いかけて、お弁当を渡した。


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