一途な御曹司と16歳の花嫁
「これを運べばいいのか?」


お皿を入れたカートを指差した彼が躊躇なく押そうとするので、私は急いでそれを止める。


「駄目です、やめてください。こんなことを伊織さまがしたらいけません」


彼には彼の立場というものがあるのだから。


新海家の跡取り息子という大切な役割が。


パーティーに参列している上流社会の人達の前で、下働きのような仕事を手伝わせるわけにはいかない。


彼の評判をほんの少しでも傷つけたくない。


「お願いですから、もう戻ってください。私なら大丈夫ですから」


必死でそう言って、ペコリと頭を下げてカートを押した。


「つむぎ」

それでもなお伊織さまが私のあとをついてこようとするのでヒヤヒヤしてしまう。


「伊織さま、お待ち下さい。こちらへ」


だけど南さんが私達に気がついて助けにきてくれたのでホッと胸を撫で下ろした。

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