あなたの愛に包まれて
「福山財閥にとってもあいつは後継者として悩みの種だ。」
とっても?私も神崎にとって悩みの種ってことか・・・千晃は再び自分の心が乾いていくのを感じた。
「これ以上がっかりさせるな。福山財閥にとっても、神崎にとってもお前たちの婚約は妥協案だ」
父は多くを語らなかった。
「ふさわしい行動をとれ。」
「大変申し訳ございませんでした。」
剣持が深々と頭を下げる。立ったままの千晃に剣持が視線を送る。
その視線を感じて千晃は小さく頭を下げて会長室を出た。

千晃と剣持の背中に向かい会長は「これ以上がっかりさせるな」と言葉を付け加える。

千晃はギュッと唇をかみしめた。
血の味がする。

再び乾ききった千晃の心に血の雨がぽつりぽつりと降り始めた。
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