25年目のI love you~やっぱり一緒に・・・②~
翌朝、前夜の言葉通り、夫は朝一番に近いくらいの早さで、出て行った。


「こんなに朝早くに、悪かったね。」


「ううん。」


「長い間、本当にありがとう。感謝してます。行って来ます。」


「行ってらっしゃい。私の方こそ、本当に長い間、お世話になりました。」


これが私達の、夫婦としての最後の会話。深々とお互いに頭を下げ合うと、夫はクルリと私に背を向けた。振り返ろうとせず、足早に去って行く夫の後ろ姿を、妻としての最後の務めとして、見えなくなるまで見送った。


それから少し経って、今度は次男だ。


「ちょくちょく、泊まりに行くからな。」


「えっ?」


「男、引っ張り込む余裕なんか、ないように。」


「清司・・・。」


「もちろん、父さんもしっかり監視する。俺は諦めないからな。絶対もう一度、2人を繋いで見せる。」


真剣な表情でそう言うと、次男は出て行った。


そして、いよいよ私の番・・・。


引っ越し業者のトラックが着いたのは、次男が出てまもなく。


荷造りがまだ完全に終わってないことを詫びると、承知しましたと答えたリーダーの指示で、動き出したスタッフ達。


それは見事な手際のよさで、瞬く間に、家から自分の痕跡がなくなって行く様子を、私は半ば呆然と眺めていた。 


「完了です。」


リーダーにそう告げられて、ハッとした私は、促され、残っている荷物がないかを確認するのと施錠の為に、家の中をひと回りする。


どの場所にも思い出があった。楽しいばかりではなかったけど、私の人生の半ば以上が、この家と家族と共にあった。


この家を建てた時、夫は言った。


「ここが俺達の城だ。子供達は、いずれ巣立って行くだろうけど、俺達はここで一生過ごすんだ。朱美と2人で過ごすんだ。これからも、そして最後までよろしくな。」


「はい。」


完成した我が家を前に、夫とそんな話をしたのが、本当に昨日のことのようだ。


だけど、私は今、この家を出る、1人で。あの時には、そんな現実が訪れるなんて、想像もしてなかった。


最後に玄関を締め、深々と一礼すると私は家に背を向けた。現実的な話をすれば、今使った鍵を返しに、私は近日中にこの家を訪ねることになる。でも、その時の私は、もうこの家の「住人」ではない。


「お願いします。」


トラックの助手席に乗り込むと、私はドライバーさんに告げた。


車が走り出す。もう泣かない、そう決めたのに、やっぱり無理だった。夫を見送った時、次男が玄関ドアを閉めた時、そして今・・・。


私の瞳から溢れる涙はしばし、止まることはなかった。
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