守る理由。

『普通は家を買うとかないんですよ、ローンを積み立てて何とか買う…そういうのが人間界では普通だったんです。』

蒼司「それが何だと言うのだ。」

『だからこう…おかしくないですか、何で不動産屋さんの目の前に居るんですか。』



どうやら人幻界は人間界と同じく不動産屋で家を売っているらしく、僕と彼は今共に不動産屋の前に立っている。

立派な不動産屋だな、と感心している暇など無い。

何せこの人は今からここで家を買い求める気らしいから。



蒼司「ここには暫く滞在する、それならば買って置いて損はないだろう。」

『いやそうかもしれませんけどね…!?』

蒼司「“種”がどんな形をしているかさえ分からない…場合によっては年単位でこの世界に居ることになるかもしれないのだ。宿を借りて…などしていたらそっちの方が金も掛かるだろう。」



…彼の言っていることに何度かツッコミたくなったものの、間違ったことは言っていない。

家を買うより何年も宿を借りた方が掛かってしまうだろう。

とは言え、流石に家を普通そうな顔して買っていく程の金があるとすると…何故だろうなどの考えも生まれ、頭を抱えるしかなくなってしまうというか。



蒼司「あんたとの旅は予想されていたものだ…そのために金を渡されている。それもかなりの額のな…だからあまりそこら辺を気にしたりしなくていい。」

『そこ、そこなんですよ。』



そう言うと、彼は不思議そうな顔で僕を見つめる。



『…あなたに僕のことを…というか、“守るべき存在”のことを伝えた人…お金を渡してくれた人…それがどんな人なのかさえ分からないでいるんです。それなのに…普通に使う、って言うのが何とも言えなくなるんです。』



そう言えば、彼は黙って腕を組む。

なんて答えるかを考えているのだろう。

これに返事が来ない限り、僕はこの中に入るのを心底嫌がると自覚している。

さて…彼はなんて答えるのか。

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