2人のあなたに愛されて~歪んだ溺愛と密かな溺愛~
『いやぁ、樹君じゃないか。こんなところで会うなんてね』


すぐ後から来た紳士が、樹さんに声をかけた。


ロマンスグレーで、随分と貫禄のある男性だ。


『綾元社長、本当ですね、驚きました。いつもありがとうございます』


『こちらの可愛らしい女性は、樹君の彼女かな』


その紳士が尋ねる。


『はい、私の婚約者の間宮柚葉さんです』


『あ、あの、間宮柚葉と申します。樹さんがいつもお世話になっています』


もう、とにかくお芝居するしかないよね。


緊張して来た。


『沙也加の父です。娘がいつもありがとう』


『お父様、柚葉さんにお世話になんかなってないわ。私、樹のこと、こんなに好きなのに、樹は、こんな人と』


沙也加さんが、キツく言った。


私は、思わず下を向いた。


『樹君、ここでは他の方にご迷惑だ。個室で話そう』


この展開は…良くない展開かな…


どうしよう…


とにかく、私達は沙也加さんの御家族が食事される個室に呼ばれ、そこに移動した。
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