我妻教育3
啓志郎くんの前髪が汗で濡れている。
睨み付けるような真剣な目つきであたしを見据えた。

ーー怒ってる?
まなざしの強さに息をのみ、思わず後ずさりしそうになる。

こんな、啓志郎くんは、初めて見た。

いつもは、きちんと着用してるシャツのボタンの上部はいくつか開襟され、首筋を汗が流れていく。
上気した肌に、汗がイルミネーションに反射して、妙に艶っぽい。

啓志郎くんは、あたししか見ていない。

あたしから視線を逸らさずに、雑に腕まくりした長袖ワイシャツの袖で、額からを流れ落ちる汗をグイッとぬぐう。

その男っぽい仕草に、色気のような、見てはいけないものを見たような、ハラハラした気持ちになった。

そして、乱れた息を整える間もなく、ツカツカとあたしに向かってきながら、啓志郎くんは口を開いた。

「未礼は、恋の延長に結婚があると、まずは恋をしろと言ったな。
恋と言うものがどういうものなのか、私にはまだ分からぬ」

啓志郎くんは、亀集院さんとの間に割り込んで、正面からあたしの両腕をつかんだ。
鋭く強い黒い瞳があたしを捕らえて訴える。

「だが今は、恋とか愛とかそんなものは後にして欲しい。
考えている間に、奪われてしまったら意味がないではないか!
先に、私と一緒になってくれ!」

耳の奥がビリビリと音を立て、脳が痺れた感じかした。
目が離せず身動きがとれない。
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