我妻教育3
『はい?』

「お断りします」
マイラ姫の言う通りにはしない。

『何を仰っているんですか?
こんな良い話、今後二度とありませんよ?
貴女、ご自分の可能性を自ら潰すおつもりですか?』
いつもは機械的な話し方をするマネージャーの声色には、わずかに動揺が感じられた。

そりゃ、あたしだって楽して良い仕事欲しいよ。

一皿飯も、全国版の雑誌じゃなく、タウン誌に掲載が決まったとき、生意気にもガッカリしたのは事実だけど。
それが、あたしの今の実力。

「身の丈に合わない仕事はいりません。
そんな仕事を得たところで、すぐにダメになると思いますから」

正直今、キンポウゲ5分クッキングに立つ自分の姿は想像つかないし、本だって出版したって売れる気しない。

あたしにはまだ、その実力がない。
お膳立てしてもらったところで潰れるだけ。
それに一生、キンポウゲの言いなりになる。

目の前の信号が赤になり、立ち止まり、腕時計で時刻を確認した。電車の時間には間に合いそう。

遅れるわけにはいかない。
啓志郎くんが待っているから。

例え、これでタウン誌の連載を失ったとしても。

啓志郎くんと引き換えにしてまで得るものじゃない。

「それに、啓志郎くんに会うなって言われる筋合いありません。
もちろん、あたしは啓志郎くんには相応しくありません。
でも、マイラさんも啓志郎くんに相応しくありません」

『は?』
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