【完】STRAY CAT



「ちょ、ちょっと待って……っ。

"大変なことになった"って、なに……?」



ゆらゆら、ゆらゆら。

鞠の声が、視線が、不鮮明に揺れる。



「恭に……なに、が、あったの……?」



──ドクン、と。大きく波打つ、鼓動。

いつも冷静な鞠が見せたことのない、取り乱した姿。



「ねえ、っ……お願い……」



蒔を守るためだけに、ブレずに立っていた鞠が。強く在ろうと、鉄壁のプライドを纏ってきたはずの鞠が。

こんなふうに、懇願するなんて。



今にも泣き出しそうな声で、誰かに縋るなんて。

そんな姿、きっと。俺は、知らなくてよかったのに。




「っ……、」



ぽろっと、鞠の目から落ちる涙。

震える声で相槌を打つ鞠は、電話を終えてから俺を見る。



「蒔のこと……お願い」



「鞠」



「あすみくんが迎えに来てくれる。

帰りも送ってくれるから、心配しなくて大丈夫」



「違ぇよ。俺が言ってんのはそんな事じゃねえから」



もちろん夜道にひとりで出歩かせることなんてしたくない。それも事実だ。

だけど俺がいま言いたいのは、そんなことじゃない。



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