君と向日葵

名所巡りに行きましょう


ホテルに到着後、簡単な昼食をとった一行は担当教員からレクチャーを受けて周辺のオリエンテーリングに出発した。
薫は岸本、恭平のほか下田幸恵、吉川琴絵(42歳既婚者)という5人のグループで街中を歩いていた。
因みに吉川は大の酒好きで、船乗りの旦那が不在の時はしょっちゅう飲み歩いている。薫も夜中に呼び出されて朝まで付き合ったことがあるが、きれいな飲み方をする女性で決して乱れることはないみたいだ。ただ、明らかに割り勘要員として呼び出すのは止めてほしい。

「野田紳一郎の像ってあれじゃないの」
下田が指さす先に山高帽を被ったカイゼル髭の偉そうな爺さんの銅像が立っていた。
「ハンコもらってくるわ」
岸本がウオークラリー用のカードを手に、銅像の近くにいる介護科の主任先生(推定50歳独身 女性)のほうへ走っていく。
「あと三か所で上がりか。あ~喉乾いた、ビール飲みたい」
吉川が愚痴る。
「琴絵ねえさん、旅行中は禁酒ですよ」
恭平にたしなめられて吉川は顔をしかめた。

薫が与えられた地図で次のチェックポイントを確認していると、違うルートをたどってきたらしい他のグループが近づいてきた。
梓と美紀プラス尾上、柿山、志村の男性3人の班だった。
尾上は48歳で元トラック運転手。柿山は新卒であまり自分から話すことがなくどことなく影が薄い。その中で志村敏夫は58歳でクラス最年長なのだが、外見はどうみても10歳以上上に見えて、口の悪い者は陰でオジイチャンと呼んでいる。
本人もそう呼ばれていることに気付いているようだが、元来温厚な性格で面倒見がいいのでおおむね好かれている。

それぞれ手を挙げてあいさつを交わすとき、薫と梓の目が合った。席が変わったこともあって最近はほとんど会話らしい会話をしていなかったので、お互いぎこちない雰囲気を感じた。
「あとどこが残ってる?」
恭平が美紀に話しかけている。二人は同じ高校出身で在校中に多少面識があったらしい。
「ええっと、あと三か所かな。こことここと...」
「おっ、オレらと同じ所が残ってるじゃん、一緒に回ろうよ」
なし崩し的に二人に決められてしまったが、特に反対する理由もないので全員でぞろぞろと移動を始めた。

地図を持った薫が先頭を歩きだすと後ろから梓の声がした。
「薫さん!この前岸本さんたちと一緒にS市のカフェにいたでしょう?」
梓が肩が触れそうなくらいに近づいて言った。やっぱりこの子は人との距離が近い。
「う、うん。アズちゃんもいたんだね。ところで鼻の穴が膨らんでるよ」
「乙女に対してなんてことを!」
梓が両手で口元を覆った。
「声をかけてくれればよかったのに」
「いやお連れさんがいたみたいだったから遠慮したんだ」
「お兄ちゃんと一緒だったんです。おばあちゃんのところに行った帰りで」
(お兄さんだったのか、そう言われてみれば顔立ちが似ていたかな)
「そうだったんだ、いやあ岸本さんがカレシかもしれないから見なかったふりをしようっていうもんだから」
梓の表情がナントカの叫びみたいになった。
「カレシなんていません!」
急に梓が大きな声を出したので美紀がびっくりしてこちらを見た。
「いや僕が言ったんじゃないんだからそんなに怒らないでよ」
今度は梓の顔がみるみる真っ赤になった。百面相っていうのか、面白い。
「お、怒ってなんかないです。ごめんなさい。」
「それならいいけど、じゃあ次のチェックポイントを探そうか」
「はい」
二人の会話に聞き耳を立てていた美紀の眼鏡がキラリと光ったようだった。その顔はまるでま〇子の友達た〇ちゃんのごとく。
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