COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
行くと言ったところで、私は彼のことをよく知りもしない。
それに正直何よりも彼への恐怖にも似た緊張が解けない限り、まともに会話をすることも不可能だ。
行かないと言う選択肢は…。
目の前の彼をちらりと盗み見る。
彼は顔をしかめたまま、私の返事を待っていた。
顔…こっわー。
一度だけ。一度だけ行けばいいんだ。
心の中で決意を固めた。
「あ、あの実は…
昭香先輩も一緒に行きたいらしくて!!
ご一緒でも大丈夫なのであれば!」
もちろん大嘘だ。
『ああ、わかった。
…これ連絡先。』
胸元のポケットから小さな革製のケースを出すと、手慣れた様子で中から一枚名刺を取り出してこちらへ差し出した。
「はい…またご連絡します」
…なんで私なんだろう。
消えない疑問を抱えながら、それを力なく受け取った。
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*RAINY DAY