COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
BLACK COFFEE

*BLACK COFFEE 《優香》


休みの日はついつい食事を忘れてしまう。

気付けば午前中はあっという間に過ぎていて、
何も食べていないことに気付くともう夕方になっている。

けれど元来、食に対してさほど執着がないので、そのことについて深く考えることもなかった。

でも…

ふと右手首を見つめる。

壁にかかった時計の針は19時半を指している。

それを確認すると
立ち上がり、黒色のタンクトップを脱いだ。


着替えを終わらせて、姿見の前に立つ。

袖に少しだけライム色のラインが入ったアイボリーのローゲージのサマーニットにデニム。


”『優香は白がよく似合うね』”

耳に声が蘇る。


一瞬にして、心の底から、
頭の底から”彼”との思い出が溢れてくるような感覚。


彼の声。

姿勢のいい歩き方。

長くて細い指。

なんでこういう時、思い出すんだろう。

さっき思い出していた優しい笑顔が、消えていく。


「もう、消えてよ…」

耳を塞ぐ。


”『優香、ずっと…』”

その続きをかき消すように部屋から飛び出した。
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