彼はネガティブ妄想チェリーボーイ
気付いたら、風呂場から出ていた。
部屋に戻るしかない。

答えは結局出なかった。

階段を上って部屋に入る。
ドアを開けると、沙和が本棚からこっちに顔を向けた。

「早かったね。」

沙和が言う。

「うん、ザッと洗っただけだから。」

俺はいつも通りベッドに座りながら頭を拭く。

どうしよう、ムードの作り方が分からねえ。

沙和が本棚の前から移動しようとしたのか、体が小学校の卒アルにぶつかった。

あ・・・と思った時にはもう遅い。

卒アルが本棚から落ちる、と同時に見覚えのある小さな箱も一緒にカタッと床に落ちた。

1回戦の日に買ったコンドームだった。

沙和が足元に落ちたそいつに視線を落とす。

急に静まり返る空間。

俺は思考停止。
口だけが勝手に動き始める。

「そ、それは・・・男としてのマナーだから買っただけで・・・。」

男として、男として、男として・・・

それ以上の言い訳が見つからない。

っていうか、普通に考えて沙和とやりたくて買ったと誰もが思うだろう。
まずい。

怖くて沙和の顔を見れない。
俺が目を泳がせてると、いつもの調子で沙和が答えた。

「あ、うん。そうだよね。」

そしてコンドームの箱をさくっと手に取って元あった場所に戻した。

え!?
めっちゃ普通!

すげえ慣れてる感じ。

五反田の「経験豊富」という言葉が今初めて沙和に重なる。

俺のこのパニックぶりと雲泥の差。

すごい普通だったぞ・・・
こいつ、多分実物を手にしたの初めてじゃないな・・・

沙和は表情ひとつ変えずにこっちを見た。

よし、沙和がそんなに普通なら俺も気にしてないぞ。
コンドームを流せ流せ。
流れを変えるぞ。

< 89 / 96 >

この作品をシェア

pagetop