素直になれない夏の終わり

「……別に、落ち込んでないし。て言うか、勝手に掃除して、そのうえ勝手に料理までする気なの?」

「他に何かして欲しいことがあったら、言ってくれれば何でもするよ」

「じゃあ、今すぐ帰って」

「それは却下」

「何でもするって言ったでしょ!」

「出来ることと出来ないことは当然あるよね」


夏歩が不機嫌面で睨みつけると、津田からは笑顔が返ってくる。


「そんな顔も可愛いね」

「煩い、黙れ。そして帰れ」

「じゃあ、俺と付き合おう」

「“じゃあ”の意味がわからない!」


怒鳴った拍子に、先ほどから漂っていた胃の辺りのモヤモヤが、強くなったような気がした。


「なっちゃんはほんと、素直じゃないよね。俺のこと好きなくせに」

「あのね、何度も何度も好きじゃないって言って……っ!」


ん?と首を傾げる津田の前で、夏歩は口元を両手で覆って慌てて立ち上がる。

ベッドの上で立ち上がった為に、ぐんと身長の高くなった夏歩を見上げ、津田は「どうしたの?」と声をかける。

それに答える余裕もなく、夏歩は口を手で覆ったまま部屋の中を駆けた。
トイレに向かって、それはもう全速力で。
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