気づけばいつも探してた
「君みたいな女性は初めてかもしれないな。だって、たった一度だって俺に不満を口にしないだろう?」

「それは……」

エリート外科医だから忙しいのはしょうがないことだし。

そんな彼女を引き受けるには、大らかでいないといけないと思ってるから。

だけど、なんとなくそれをそのまま口にするのは憚られる。

「不満なんてないですから」

うん、嘘じゃない。

不満なんて言えるほど自分は竹部さんと比べたら大した人間じゃない。

不満を感じる自分がおかしいんだって思うもの。

「ふぅん」

彼は少しだけ口角を上げ、試すような視線を送りながら頷いた。

「まだ何か?」

その目に疑心を感じて思わず尋ねてしまう。

「いや、いい。俺もこの長い人生ですっかり信じることが怖くなってしまって疑い深くなってるんだろうな。美南ちゃんみたいに素直な心を取り戻したいよ」

「信じることが怖い?」

その時、映画が始まるチャイムが会場に鳴り響いた。

竹部さんのその言葉にひっかかりつつも、幕が開いたスクリーンに顔を向けることにする。

映画は私が選んだサスペンスもの。

恋愛でもいいんだろうけど、なんとなく竹部さんのイメージには恋愛映画ってなかったから。

頭のいい人はどんな映画を楽しめるんだろうって考えた時、サスペンスものしか思い浮かばない。

ま、私もそこそこ好きだから全然いいんだけど。

さっきまで気になっていた竹部さんの言葉もあっという間に映画のストーリーに引き込まれて遠ざかっていった。
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