気づけばいつも探してた
その時はきっと社交辞令だろうと思っていたのに、本当に彼は私の勤める会社にまでやってきた。

受付に呼び出された私は、受付嬢の好奇な視線を浴びながら改めて彼にデートを申し込まれて、嘘みたいだと思いながら彼と付き合うことになったんだ。

本当に付き合っちゃっていいのか何度も心配になって美由紀に相談したけど「彼はとっても有望でいい人」と太鼓判を押されてそのまま今に至っている。

外科医という仕事柄、会っててもなかなかゆっくり会うことはできず、大抵途中で呼び出される彼は「ごめん」と言って私一人を残して病院に向かった。

出会って2か月、デート4回目の今日、ようやくいつもより時間に余裕があるという彼と初めてこのホテルの一室で肌を合わせようとしている。

まだ本当に付き合ってるのか半信半疑な状態の自分に若干の嫌悪感を抱きながら。

だってまだ『好き』って気持ちがあふれるほど彼のこと知らない。

彼は私のブラウスのボタンをゆっくりと外していく。

気持ちがついていかないのに、抵抗する余裕もない私は、ただ彼の少し汗ばんだ肩に視線を落とすだけだった。

その時、ベッドサイドに置いてある彼のスマホが震える。

眉間にしわを寄せ私に苦笑すると、彼はスマホを手にとり耳に当てた。

「はい、竹部です。ああ、ええまぁ……え?そうですか、すぐ向かいます」

きっと病院からだ。

いつもの感じ。

スマホを置いた彼は「ごめん」と言ってベッド脇に無造作に脱いだシャツを羽織ると立ち上がった。シャツからふわっと爽やかな香りがする。

「呼び出しだ。昨日のオペ患者の調子が悪いからすぐ来てくれって。患者の担当医が別の緊急手術が入って手が離せないらしい」

私はベッドからゆっくりと体を起こした。

この状況から解放されたことに少しホッとしながら、自分のはだけたブラウスのボタンを閉める。そして、腕時計をはめる彼の横顔に言った。

「竹部さんはいつもお忙しいですね」

視線だけ私に向けた彼が苦笑する。

「全くだ。俺もゆっくりしたい。よほどのことがない限り今日は大丈夫だと思っていたんだけどすまない」

上着を肩にかけた彼は私の頬にそっと唇を当てると「また近いうちに連絡するよ。部屋は夜中まで抑えてるから、君はしばらくここでゆっくりして帰ればいい」と言って部屋を出て行った。

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