気づけばいつも探してた
【大吉】の暖簾をくぐり、引き戸を開けると「いらっしゃい!」と威勢のいい大将の声が響く。

目の前に一枚板のシックな色目の長いカウンターが伸びていて、その一番奥に翔が笑顔で小さく手を振っていた。

彼の笑顔にようやくホッとする自分がいる。

私は急ぎ足で翔の隣の席まで向かう。

店はカウンターの後ろに四人掛けの机といすが5つほど並ぶこじんまりとした居酒屋だけど、毎晩常連客で賑わっていた。

席に腰を下ろすと、大将がすぐに私の目の前に生中をドン!と置く。

常連である私のパターンを熟知していてくれているならではの気の利いたサービス。

「大将、いつもありがとう」

「こちらこそいつも来てくれてありがたいよ。元気いっぱいの美南ちゃんの笑顔からいつも元気をもらってる。なぁ?翔くんもそうだろう?」

大将は冷やかすような表情を翔に視線を向ける。

「そうですかね?」

翔はそんな大将にわざとらしくとぼけた顔をして首を傾げた。

「二人はほんとお似合いなのに、未だに付き合ってないってのが信じられないよ」

大将は口をへの字にして頭をかいた。

「人生いろいろあるんですよ」

翔はそう言って口元を緩めると「はい、お疲れさん」と言って私が手に持つグラスに自分のグラスを合わせる。

「お疲れ様っ!」

私も慌てて答えると、なみなみと注がれたビールをのど元に流し込んだ。

翔との付き合いはもうかれこれ3年くらいになるだろうか。

未だに翔の苗字を知らない。
彼がどんな仕事をして、どういう家族構成かも話したことがなかった。

知っているのは彼が私よりも2つ年上の29歳で、私と同じ城巡りが趣味だってこと。

正直、翔は翔であれば、それ以外のことは私にはどうでもよかった。

気の置けない唯一無二の男友達としてそばにいてくれたら、それ以上何も求めることはない。

そう、それだけ。

彼との出会いは人生の一瞬、通りすがりで終わるはずが、なんとなくの縁で繋がってる。

それは、親友との出会いに似ていて、恋愛とは違ってると思ってた。
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