気づけばいつも探してた
萌と別れた後も、なんだかまだ気持ちがすっきりしていなかった。

一体、萌は仕事辞めて何を始めるんだろう。

辞めるって結構な勇気だと思うから。そこまで萌を突き動かした何かって?

私だって何度も辞めることを考えたけど、結局そこまでの決意に至る理由も勇気もなくて今も同じ場所でそれなりに居心地よく働いている。

まぁ、引き金になったのはやっぱり立花さんの存在も一つあるだろう。

あのUSB事件は例え萌が許したって私は許せない。

でも、萌は辞めようと思っていたから、それ以上事を荒立てたくなかったのかもしれないな。

そう考えたら、萌は私よりずっと大人だわ。

私が一人モヤモヤしてたって、当の本人がすっきりしてるんだったらそれはそれでいいんだ。

うん、そう思うことにしよう。

あの寒椿のように凛とした萌は簡単に枯れやしないわ、きっと。

駅のホームで電車を待っていると、電話がかかってきたのに気づく。

母からだった。

『来週、おばあちゃん一時退院時の外出許可が下りたわ』

「そう、よかった!」

『少しなら外出オッケーだって。さすがに姫路までとは言えなかったけど』

「確かに姫路は少しって距離じゃないわね」

翔も一緒だし、きっとなんとか乗り切れる。

何の確証もないのになぜだかそう思えた。

今日の萌じゃないけれど、祖母も環境の変化で凛と背筋が伸びるんじゃないかって、そんな祈りに似た願望もあるからかもしれない。

時計を見ると、もう23時。

長い一日だった。
とりあえず、何事もなく無事に過ぎてホッとする。

明日も早いし、さっさと帰らなくちゃ。

私は到着した電車に飛び乗った。
< 79 / 186 >

この作品をシェア

pagetop